胃がんグループ Stomach Cancer Study Group:SCSG

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胃がんグループ Stomach Cancer Study Group:SCSG

  • グループ代表者:吉川貴己(国立がん研究センター中央病院)

  • グループ事務局:朴成和(東京大学医科学研究所附属病院)
    黒川幸典(大阪大学医学部)

  • 主任研究者:吉川貴己(国立がん研究センター中央病院)
    黒川幸典(大阪大学医学部)
    寺島雅典(静岡県立静岡がんセンター)

  • グループ代表委員:
    藤誠二(愛知県がんセンター)
    庄司広和(国立がん研究センター中央病院)
    高張大亮(がん研究会有明病院)
    徳永正則(東京医科歯科大学)
    仁科智裕(四国がんセンター)
    布部創也(がん研究会有明病院)
    羽藤慎二(四国がんセンター)
    町田望(神奈川県立がんセンター)
    山口研成(がん研究会有明病院)
    山田貴允(神奈川県立がんセンター)
  • 設立:1984年

                         

※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担うメンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。

            

概要

旧胃がん外科グループは元癌研究会附属病院副院長の中島聰總先生を中心とした探索的胃がん術後補助化学療法研究グループ(Exploratory Surgical Adjuvant Chemotherapy Study Group:ESAC)がJCOGに参加するという形で始まりました。発足当初は、術後補助化学療法の臨床試験を行ってきました。その後、1995年より我が国で初めて手術療法に関するランダム化比較試験を行い、標準手術としてのD2胃切除術を確立してきました。現在は、低侵襲手術の開発にも積極的に取り組んでいます。また、2000年以降、周術期補助療法の研究では、術後から術前にシフトした戦略で臨床試験を行っています。その後、2011年に旧消化器がん内科グループの一部と合併して、新生胃がんグループとして新たにスタートしました。この組織改編に伴い、集学的治療を用いた治療戦略の確立だけでなく、切除不能・再発胃がんに対する全身化学療法の新たな標準治療の確立などを目指して、活動の範囲を広げています。また、海外の研究グループとの共同研究も試みられており、減量手術の意義に関して韓国胃癌学会と共同でランダム化比較試験を実施しました。現在、欧州のEORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)との共同研究も企画されています。

   

研究のあゆみ

●旧胃がん外科グループ
胃がん外科グループとしての最初の臨床試験は1984年に開始された、JCOG8401となっていますが、初めて正式な手続きを経て開始された臨床試験は1988年に開始されたJCOG8801です。この試験は胃がん根治手術後の補助化学療法を評価するものでした。漿膜浸潤陰性例を対象とした試験では手術単独をコントロールとし、漿膜浸潤陽性例を対象とした試験では化学療法同士の比較を行いました。この試験はネガティブスタディーでしたが、Lancetに掲載されています。
この当時、我が国の実地医療では胃がんに対する治癒切除後に補助化学療法を行うことが一般的であり、漿膜浸潤陰性例に限ったとはいえ手術単独をコントロールとしたことは画期的な出来事でした。それでも登録は順調で予定登録期間内に登録予定数を超えてしまいました。これに力を得て、その4年後に開始されたJCOG9206では漿膜浸潤陽性例に対しても手術単独をコントロールとするようになりました。
このグループでの特筆すべき業績は、手術療法同士の比較をJCOG試験に持ち込んだことといえます。JCOG9501は治癒切除可能なT2(SS)以深の進行がんを対象にD2郭清とD2+大動脈周囲リンパ節郭清を比較する試験で、全例再発までは術後補助化学療法無しで経過観察するという考え方で実施されました。523例を集積するという胃がんの手術療法の歴史では画期的な試験となりました。結果はネガティブでしたが、2008年にNew England Journal of Medicineに掲載されました(JCOGで2試験目)。同時に開始されたJCOG9502では、食道浸潤胃がんを対象に2つの手術法を比較し、左開胸手術は行うべきではないことを証明しました(Lancet Oncology)。大弯にかからない上部胃癌を対象とし脾摘に対する脾温存の非劣性を検証したJCOG0110試験では、脾温存の非劣性が証明され、脾摘は行うべきではないと結論づけられました(Annals of Surgery)。T3以上の進行胃がんを対象に網嚢切除の優越性を検証したJCOG1001試験では、網嚢切除の優越性は証明されず、網嚢を温存すべきであることが分かりました(Lancet Gastroenterology and Hepatology)。更に、大網を切除すべきか否かを検証するJCOG1711試験も進行中です。腹腔鏡手術に関する臨床試験としては、幽門側胃切除で根治可能な臨床的Stage I胃癌を対象として、開腹手術に対する腹腔鏡手術の非劣性を検証する試験(JCOG0912)を行い、腹腔鏡手術の非劣性が証明されました(Lancet Gastroenterology and Hepatology)。また、腹腔鏡下の胃全摘術、噴門側胃切除術の安全性も証明されました(JCOG1401)(Gastric Cancer)。JCOG0912試験とJCOG1401試験の結果、腹腔鏡下胃切除術は、Stage I胃癌に対する標準手術の一つに位置づけられることとなりました。現在、腹腔鏡手術の特性を生かした精緻な脾門郭清の安全性を証明する試験(JCOG1809)、腹腔鏡手術に対して、ロボット手術の優越性を検証するJCOG1907試験、がそれぞれ進行中です。周術期化学療法に関する研究では、Stage II/IIIに対するS-1の優越性を証明したACTS-GC試験の結果を受けて、Stage IIに対してはS-1による有害事象の低減を目的に、投与期間を半分にした治療法の非劣性試験(JCOG1104)が行われています。期間を短縮する治療の非劣性は検証されず、1年間のS-1が標準治療であると結論づけられました(Lancet Gastroenterology and Hepatology)。また、Stage IIIに対しては、より強力な化学療法を実施すべく術前化学療法の開発に取り組んでいます。その際、最も大きな問題となる術前診断の正確性を検討すべく、前向きの観察研究(JCOG1302A)を実施しました。この結果から対象を厳格に選択し、術前・術後化学療法の優越性を検証する第III相試験(JCOG1509)が進行中です。また、近年増加傾向にある高齢者に対する術後補助化学療法の有用性を検証する第III相試験(JCOG1507)も進行中です。切除可能ではあるが予後が不良な大型3型、4型胃癌に対しては、術前化学療法の効果を検証する第III相試験(JCOG0501)を実施した結果、2剤を併用した術前化学療法の上乗せ効果が期待できないことが証明されました。同様に予後不良な高度リンパ節転移胃癌を対象として術前化学療法と拡大郭清による治療開発(JCOG0001/JCOG0405/JCOG1002)も行われ、良好な治療成績を上げており(Br J Surg, Br J Surg, Gastric Cancer)、更に新たなレジメンでの術前化学療法の試験が進行中です(JCOG1704)。また、HER2陽性の高度リンパ節転移胃癌を対象として、術前トラスツズマブの有効性を確認するランダム化第II相試験も先進医療のシステムを利用して行われています(JCOG1301C)。この試験は、胃癌の周術期治療に個別化の扉をひらくものと考えられます。この様に多彩な臨床的疑問に回答を出すべく研究に取り組んでいます。

●旧消化器がん内科グループ
消化器がん内科グループでは、切除不能・再発胃がんに対する全身化学療法の臨床試験を行ってきました。1990年代初めまでは切除不能進行・再発胃がんを対象とした化学療法の第II相試験を展開し、その後第III相試験(JCOG9205)を行いました(J Clin Oncol)。JCOG9205の結果を受けて、5-FU単独療法を対照としてS-1単独療法とイリノテカン+シスプラチン併用療法の3群による第III相比較試験(JCOG9912)を行い、5-FU単独に対するS-1単独療法の非劣性を示しました(Lancet Oncology)。この試験は現在の本邦における切除不能進行・再発胃がんに対する標準化学療法確立に大きく貢献しました。また、胃がんは腹膜に転移することが多く、消化管の通過障害、腹水、水腎症をきたし、全身状態悪化の原因となります。胃がん腹膜転移患者を対象とした5-FU単独療法とメソトレキセートと5-FUの併用(MF)療法の第III相比較試験(JCOG0106)では、MF療法は5-FU単独療法に対して全生存期間における優越性を示すことができませんでしたが、通常は臨床試験の対象とならない胃がん腹膜播種に対する標準治療を明らかにすることができました。また、高度腹膜播種を有する場合の二次化学療法としてBest available 5-FUとパクリタキセル(毎週投与)を比較したランダム化II相試験(JCOG0407)では、パクリタキセル(毎週投与)が有望な治療法であることを示しました。HER2陰性の進行再発胃がんを対象としてCS(S-1+シスプラチン)とDCS(ドセタキセル+CS)を比較する第III相試験(JCOG1013)が行われ、残念ながら3剤併用したDCS療法の優越性を示すことができませんでした(Lancet Gastroenterol Hepatol)。また、西日本がん研究機構(West Japan Oncology Group:WJOG)とのインターグループで行われた、高度腹水を伴う腹膜播種を対象とした5-FU/ロイコボリン(LV)とFLTAX療法(パクリタキセル+5-FU/LV)の比較試験(JCOG1108/WJOG7312G)では、全生存期間におけるFLTAX療法のFL療法に対する優越性は示されませんでしたが、無増悪生存期間はFLTAX療法が有意に良好であり、有害事象も同等で、QOLの非悪化割合も良好でした(Gastric Cancer)。これは、状態の悪い大量腹水患者に対して行われた初めての比較試験であり、次の試験が展開されています。また、全国規模のIntergroup Studyとして、ラムシルマブの増悪後継続することの意義を検討するRamucirumab抵抗性進行胃癌に対するramucirumab+Irinotecan併用療法のインターグループランダム化第III相試験(JCOG1603INT)が行われています。

      

今後の展望

胃がんに対する治療開発はここ数年で急速に進歩しています。特に薬剤開発のスピードを考えると様々な臨床試験を多国籍試験あるいはインターグループ試験として実施することが望まれています。その皮切りに、私たちは2008年からJCOG初の国際共同試験であるREGATTA試験(JCOG0705/KGCA01:減量手術の意義に関する試験)を日韓共同研究として実施し、その結果をLancet Oncologyに報告しております。一方、胃がんの中でも比較的少ない対象の治療開発では、より大きな輪で研究を進めていく必要があります。現在、EORTCと共同で肝転移に関する観察研究を企画しています。2011年の胃がんグループの改組で外科と内科の研究者がひとつにまとまることによって、手術手技試験および全身化学療法試験の登録スピードアップにつながるだけでなく、術前後の周術期化学療法などの臨床試験においてもそれぞれの長所を生かした新たな治療戦略の開発に協力し合っております。さらには、JCOGが中心ではありませんが、日本国内にある臨床試験グループが一丸となってAll Japanの比較試験にも参加する予定です。今後は、先進医療や医師主導治験などの制度を利用し、適応拡大を狙った臨床試験も検討していきたいと考えております。さらには、JCOGバイオバンクを利用したTR研究も展開する予定です。また、今後のJCOG胃がんグループを担って頂ける人材を育成する目的で、若手の会を設立しました。胃がんグループHPの作成(https://www.jcog-stomach.com/)、新規研究の提案など、非常にactiveに活動しております。若手ならではの斬新なアイデアで新たな治療戦略の立案に期待がよせられています。

       

※グループ活動の紹介文は、2020年8月に更新したものです。

     

実績

        

その他の研究グループ