
- グループ代表者:尾﨑敏文(岡山大学病院)
- グループ事務局:田仲和宏(大分大学医学部)
- 主任研究者:尾﨑敏文(岡山大学病院)
主任研究者:田仲和宏(大分大学医学部) - グループ代表委員:平賀博明(北海道がんセンター)
グループ代表委員:中谷文彦(国立がん研究センター中央病院)
グループ代表委員:岩田慎太郎(国立がん研究センター中央病院)
グループ代表委員:国定俊之(岡山大学病院)
グループ代表委員:中山ロバート(慶應義塾大学病院)
グループ代表委員:生田国大(名古屋大学医学部付属病院)
グループ代表委員:綿貫宗則(東北大学病院)
グループ代表委員:川井章(国立がん研究センター中央病院)
グループ代表委員:永野昭仁(岐阜大学医学部)
グループ代表委員:西田佳弘(名古屋大学医学部)
グループ代表委員:坂本昭夫(京都大学医学部附属病院)
グループ代表委員:遠藤誠(九州大学病院) - 設立:2002年
※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担うメンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。
悪性骨軟部腫瘍は他のがん種と比較して発生が稀であり、しかも組織型が多岐にわたるため、限られた患者数の単一施設では新しい治療戦略の開発が困難な疾患です。骨軟部腫瘍に対する標準治療の確立のためには全国規模の多施設共同研究が不可欠であり、私たちは2002年度からJapan Clinical Oncology Group(JCOG)内の1グループとして骨軟部腫瘍グループを立ち上げ、精力的に活動しています。現在、代表的な悪性骨腫瘍である骨肉腫、局所浸潤性の強い中間型骨腫瘍である骨巨細胞腫、および軟部肉腫を対象に標準治療の開発を目指した臨床試験を行うとともに、それらの附随研究を実施しています。以下にその概要を記します。
骨肉腫に対する標準治療の開発
骨肉腫は、最も頻度の高い原発性悪性骨腫瘍であり、その治療成績はメソトレキセート(MTX)、アドリアマイシン(ADM)、シスプラチン(CDDP)の3剤を中心とする化学療法の進歩により改善されてきました。骨肉腫では、化学療法の効果判定は、主として切除標本での腫瘍壊死割合を用いて行われており、術前化学療法による腫瘍壊死割合が90%以上の場合は予後がよく、90%未満の場合は予後不良とされています。この予後不良な術前化学療法の効果が不十分な患者さんに対し、術後化学療法の薬剤を変更するさまざまな試みがなされてきましたが、これまで治療成績の改善は得られませんでした。しかし、私たちが以前行なった骨肉腫の多施設共同研究NECO-95J(Neoadjuvant Chemotherapy for Osteosarcoma in Japan)により、MTX+ADM+CDDPによる術前化学療法の効果が不十分であった患者さんに対し、術後にこれら3剤にイフォスファミド(IFO)を加えた化学療法を行うことで、予後が改善する可能性が示唆されました。この結果をふまえ、MTX+ADM+CDDPを用いた術前化学療法によって腫瘍壊死割合が90%未満(効果不十分)であった場合に、術後補助化学療法でIFOを追加することによりさらなる延命効果が得られるかどうかを検証するランダム化第III相試験JCOG0905を立案しました。本試験は2010年2月より登録を開始し、2020年8月で一次登録を完遂、今後3年間の追跡を行い主たる解析を実施する予定です。本試験の結果、術前化学療法の効果が不十分な患者さんに対して、術後化学療法にIFOを加えることで延命効果が示されれば、骨肉腫の予後をさらに改善できる新たな標準治療が確立されると考えています。
骨巨細胞腫に対する標準治療の開発
骨巨細胞腫は、関節近傍の骨に好発し、極めて浸潤性の強い増殖を示すため、手術のみでは高率に局所再発を来す骨腫瘍であり、稀ながら肺転移を生じることもある、良悪性の中間の性質を持つ腫瘍です。再発すると肺転移のリスクも増大し、関節温存も困難となるため、手術と併用し局所再発を抑制できる補助療法の開発が求められています。近年、切除不能の骨巨細胞腫に対し、抗RANKL抗体であるデノスマブの有効性が示され、大変注目を集めています。しかし、手術と併用した場合の補助療法としてのデノスマブの効果は未だ不明です。そこで、手術可能な骨巨細胞腫に対し手術前にデノスマブを投与することにより術後再発が防止できるかどうかを、ランダム化第III相試験により検証することを目的としたJCOG1610を立案、2017年10月より登録を開始しました。本試験により手術可能の骨巨細胞腫に対するデノスマブ補助療法を用いた新しい標準治療が確立できるものと期待しています。
一方、切除不能の骨巨細胞腫に対する標準治療は月1回のデノスマブの投与です。デノスマブ投与を中止すると腫瘍の再増大が起こるとされており、長期に渡り毎月の投与が必要となるため、患者さんの負担が問題となっています。この投与間隔を3ヶ月に1回に減らせれば、患者さんの受ける恩恵は大きいと考えられます。欧州の多施設共同臨床研究グループであるEORTCでは、切除不能の骨巨細胞腫を対象に、デノスマブ投与間隔を3ヶ月に延長した場合の有効性について調べる第II相試験REDUCEを実施していますが、この度JCOG骨軟部腫瘍グループに共同研究の依頼があり、この試験に参加することとなりました。REDUCE試験の結果、3ヶ月間隔の投与に問題が無いことが示されれば、切除不能の骨巨細胞腫に対するデノスマブの新しい治療方法を確立できると考えています。
軟部肉腫に対する標準治療の開発
軟部肉腫は多彩な組織型を含む軟部発生の悪性腫瘍の総称です。軟部肉腫の限局例に対する標準治療は手術による広範切除ですが、高悪性度で深部発生、腫瘍サイズが大きい高リスク例については、手術のみの治療による長期生存割合が約50%と成績不良であり、予後を改善する治療の開発が強く求められていました。当グループではこれまでに、四肢発生の高リスク軟部肉腫の限局例に対するADM+IFO併用術前後化学療法の有効性と安全性を調べる第II相試験JCOG0304を実施、ADM+IFO療法の長期にわたる安定した良好な成績を示し、新たな標準治療として位置づけました。一方で、ADM+IFO療法は副作用が強く長期入院を要するため、比較的高年齢である軟部肉腫の患者さんには負担が大きいという欠点も明らかになりました。このJCOG0304の結果をふまえ、より良い標準治療を開発するため、ADM+IFO療法と同等の効果が期待でき、副作用は軽いと考えられるゲムシタビン(GEM)+ドセタキセル(DOC)併用療法に着目し、ADM+IFO療法に対するGEM+DOC療法の非劣性を検証するランダム化第II/III相試験JCOG1306を実施しました。JCOG1306の中間解析の結果、GEM+DOC療法はADM+IFO療法に対し毒性は軽微であるものの、有効性に関して劣らないとは言えないことが判明しました。本試験の結果から、手術可能な高リスク軟部肉腫に対する標準治療はADM+IFO療法と考えられています。
一方、軟部腫瘍の進行例に対する一次治療の標準治療は世界的にもADMを含む化学療法です。しかし、一次治療後に増悪した場合の二次治療の標準治療はいまだ定まっていません。各国のガイドラインには二次治療の候補としてGEM+DOC療法、パゾパニブ、トラベクテジン、エリブリンなどの薬剤が列挙してありますが、どれを優先して使うべきかについては記載されておらず、明確な根拠を欠いた治療が行われているのが現状です。そこで、ADMを含む一次治療後の進行軟部肉腫に対する二次治療における標準治療の確立を目指し、近年次々に軟部肉腫に対し承認されたパゾパニブ、トラベクテジン、エリブリン3剤の有効性と安全性を直接比較するランダム化第II相試験を計画し、2019年12月より登録を開始しました。本試験に引き続き、本試験においてもっとも効果の優れた治療と、みなし標準であるGEM+DOC療法との第III相試験を計画しています。これら一連の比較試験により、世界的にも定まっていない進行軟部肉腫に対する二次治療における標準治療を確立できると考えています。
附随研究
骨肉腫に対しては、上記JCOG0905試験の附随研究として、本体研究に登録された骨肉腫患者さんの生検標本を用い、その遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析することにより、薬剤感受性因子(薬剤が効くか効かないかを決める因子)や予後規定因子を明らかにするための研究を実施しています。過去に行われた研究では、治療に用いられたレジメンが統一されていないことや、化学療法後の切除標本を用いた場合もあることから、結果の解釈が困難であり、真に有用な因子の同定が出来ていませんでした。本附随研究は、JCOG0905試験と同時並行で実施する前向き研究であり、これまでの研究の問題点を克服し、真に骨肉腫のバイオマーカーとして有用な因子の同定が可能となる画期的な研究と考えています。
軟部肉腫に対しては、これまでJCOG0304附随研究として、本体研究に登録された軟部肉腫の患者さんの手術標本を用いる、術前化学療法による組織学的効果の新しい判定規準を作成するための研究を実施しました。過去に報告された方法では、腫瘍細胞の壊死などの判断規準が不明確であること、化学療法以外の治療が併用されていること、用いられた薬剤が様々であることなどから、標準的な判定規準とは言いがたいことが問題となっていました。JCOG0304試験で統一したレジメンによる治療を受けた患者さんの切除標本を用いることにより、再現性が高い組織学的効果判定規準を作成することができました。現在この確立された判定規準を用いて、JCOG1306に登録された患者さんの手術標本で同様の附随研究を行っています。これにより、再現性が高く予後との相関が強い、真に有用な組織学的効果判定規準を確立出来ると期待しています。
今後の展望
上記の研究以外にも、新しい標準治療の開発に繋がる臨床試験、附随研究を計画しています。希少がんである骨軟部腫瘍の臨床試験は多大な困難を伴いますが、世界に向けたエビデンスを発信できるよう今後もグループ一丸となって研究に取り組んでいきます。
※グループ活動の紹介文は、2020年8月に更新したものです。